ねおでっど日記

間違いなくたぶん、個人の主観です

書を捨て、街に出て、Rideをジャケ買いしよう

Going Blank Again

Ride「Going Blank Again」★★★★★


はじめに

私が最初に買った(正確には買ってもらった)音楽は恐らくチェッカーズのベストで、この頃はカセットテープが全盛だった。
いわゆるノーマル、ハイポジ、メタル等の規格違いで音の良し悪しを手探りで探していた世代だ。
レコードプレイヤーは家にあった記憶もあるが、あまり嗜んだ記憶もない。
暫くして音楽ソフトのメインフォーマットがCDに移行してから、自分の中で急激に存在感を増したものがある。
そう、今も変わらぬ120×120mmのCD規格に合わせたジャケットデザイン(以下、ジャケ絵)である。
そもそもジャケ買いという言葉はレコードの時代から存在するものであり、今ここでその歴史を紐解くことはしないが、カセットテープよりもサイズパッケージ的に「作品性」があり、それを部屋に飾る楽しみもあった。
私自身、これまで失敗も数多くあったが、やはりジャケ買いで成功した時の気分は(当時で言えば)ジョルトコーラのように爽快なものだったと思う。
今回はそんな1990年代前半に出会ったRideの作品を取り上げてみたい。
もちろん、ジャケ買い成功例のお話である。


インパクトとセンス

ジャケ買いヤーにとって、ジャケ絵のインパクトは重要だ。
もちろん、中身の音楽と自然にリンクするようなセンスの良さも求められるが、ジャケ買いという行為において、インパクト勝負の側面は否定出来ない。
ドイツのベテランHRバンド、Scorpionsがあの幼女フルヌードジャケでセンセーショナルな話題を巻き起こしたのも確信犯だろうが、とにかく見た目の衝撃度、これは重要であろう。

例えば人や動物の顔を前面に強調したもので、顔ジャケというものがある。
この界隈において、最高傑作は言うまでもなくKing Crimsonのキモ顔ジャケ「In The Court Of The Crimson King」だ。

In the Court of the Crimson King


この宇宙人のような強烈な表情をした顔のインパクトに勝るものは今後100年先も出てきそうにない。
もし私が幼き乳飲み子の頃に遭遇していたらと思うと、その絶望感に夜も眠れないほどである。
恐らく一生のトラウマだ。

このあたりはさすがプログレ、さすがキンクリ、といったところだが、他ジャンルを見回すとAphex Twinの顔ジャケ「Richard D James Album」やAndrew W.K.の顔ジャケ「I Get Wet」など、時代や時期によってコンスタントに顔ジャケは世の中に登場している。

リチャード・D.ジェイムス・アルバム

I Get Wet


そうした中で、今回取り上げるRideの「Going Blank Again」のジャケ絵は、キンクリ同様実写ではない水彩イラストだが、このキュウリパックを施した顔ジャケから放たれるインパクトは、当時ティーンエイジャーだった私の視線を釘付けにするほどのものだった。
子供心にも、このアバンギャルドでエキセントリックな絵柄に魅了されてしまい、そのままレジに走り、めでたくご購入となった作品である。

果たして、Googleのある今なら、キュウリパックで画像検索すれば皆さんも恐ろしい写真の数々(失礼)をご確認頂けるかと思うが、インターネットも普及していない当時、そんな美容法をジャケ絵で世界に紹介するというのだから、このRideの流行及び文化発信センスたるや恐ろしく計算的でしたたかであると言わざるを得ない。
兎に角、インパクトとしては想定外のデザインであることは確かで、Rideファンにとっても非常に重要な作品(通称=顔ライドとしても有名)、それが本作「Going Blank Again」である。


点と点を繋ぐジャケ買い

そしてこのアルバムはRide自身にとっても最高傑作とも言うべき作品である。
轟音ギターと独特な青臭いポップが交錯したシューゲイザーというジャンルにおいて、1stで鮮烈なデビューを果たした彼らも、この2ndでジャケ絵の如きカラフルなポップス性が開花、ファン層を大きく広げた作品でもあった。

とは言うものの、私は本作を購入した当時、シューゲイザーというジャンルをほとんど知らなかった。
お恥ずかしいことに、シューゲイザーの始祖として崇められるMy Bloody Valentineでさえ聴いたことがなかったぐらい、この手のジャンルには詳しくなかった。
これは当時よく聴いていたのがHR/HMばかりで、完全にBURRN!系ヘヴィメタル熱を発症していたことも少なからず影響しているんだろうと思う。
しかしながら、Rideのこのジャケ絵は妙に自分を惹き付けるものがあり、近所のCDショップで思わず手に取ってしまったのだが、結果的にここからUK Rockの系譜を追いかけることになるわけで、そういう意味では感謝に近い感情さえ持っている。

ジャケ買いの素晴らしさはまさにこの点に尽きる。
最初は全く知らないアーティストだったのが、ジャケ買いの成功によってその周辺にあるジャンルさえも飲み込んでいくという音楽ジャンキーへの理想的なステップである。
いわば点と点を繋ぐのがジャケ買いであり、私の場合、Rideを通してシューゲイザーの門を叩き、やがてSuedeやTeenage FunclubなどUK Rockの音に魅了されていくという自分なりの音楽史がある。
要するにジャケ買いから派生していく音楽嗜好の継続性、これが重要なのだ。


ジャケ絵と中身の音楽性が一致するとき

せっかくなので本作の中身についても少し解説しようと思う。
まず1曲目「Leave Tham All Behind」はいきなり8分を超える大作であり、プログレッシブロックを強く意識したイントロは、まさにKing CrimsonへのRideなりの回答とも言うべき内容であり、また、シューゲイザー特有の湿度の高さがあまり感じられない本作の世界観を強く印象付けた曲である。
続く2曲目「Twisterella」は打って変わってポップな彼らの一面を見ることの出来る曲であり、勘のいい人なら冒頭のこの2曲で本作の方向性は手に取るように分かっただろう。

つまり、デビュー当時のシューゲイザーOnlyの音楽性からプログレッシブでポップなUKギターロックの王道へと踏み出したRideの姿がここにある。
本作のジャケ絵にあるカラフルな色調はまさにポップの象徴であり、そしてキュウリパックを施した白塗りの顔は新しい文化及び流行、つまりプログレッシブへの象徴とも言えるのではないだろうか。

これを当時のメンバーが狙ってやったとすれば、あまりにも出来過ぎたジャケ絵である。
見た目のインパクトだけで終わらないところに、Rideが持つセンスの良さを痛感してしまうわけだが、こうしたジャケ絵と中身の音楽性が一致するとき、作品の価値は自ずと高まる。
実際、本作のクオリティは今聴いても傑作、いや大傑作の部類だ。

中盤、5曲目の「Mouse Trap」や6曲目「Time of Her Time」では代名詞でもある轟音ギターが活躍しているが、アルバム全体から見ればほんの一瞬の出来事のようなもの。
全体的にはシューゲイザー色をあえて抑制したようなアレンジが目立ち、それはまるで思春期から大人への階段を駆け上がったかのような迷いのない突き抜け方を見せている。
そこにプログレッシブなスパイスをふりかけて、ほろ苦いポップな味に変貌させているのだ。

一言で言えば、Rideが本作で目指した場所、それは進歩的且つ前衛的な要素を持ったUKギターロックの頂であろう。
果たしてそれは本作のラスト2曲で目的を達成することになるのだが、この「Time Machine」と「OX4」はUK音楽界にとっても非常に価値のある楽曲ではないだろうか。
これを弱冠二十歳過ぎの若者が奏でたことに、私は今もUKに対して敬愛と畏怖の念を思わず抱いてしまう。
そして後のシューゲイザー派生の音楽にも多大な影響を与えた楽曲として看過することが出来ないものだ。

特に終曲でもある「OX4」の美しさにはため息が出る。
これは1曲目「Leave Tham All Behind」に呼応するものであり、このラストによってRideの美意識が真に覚醒した瞬間でもあった。

Ride自身、本作の発表後はメンバー間に亀裂が生じる等、酷な言い方をすれば晩節を汚すことになっていくのだが、この起承転結のあるコンセプチュアルな作品が産み出されたことは、バンドとしても最高の状態だったということが分かる。
演奏、アレンジともに素晴らしく、昨年にはリリースから20周年を記念したリマスター盤も世に輩出され、巷での人気の高さも折り紙付きである。
(ちなみにこの20周年盤は2001年にすでにリマスターとして再発された音源の使い回しではあるものの、付録となるLive DVDはファンなら一見の価値アリ的なアイテム。)

私も予約してこの記念盤を購入したのだが、狙いはDVDではなく、顔ジャケがプリントされた特製缶バッジが欲しかっただけ、というのは冗談半分、本気半分だ。
余談になるが、ライナーノーツはシューゲイザーディスクガイドの著者としても知られる黒田隆憲氏が担当しているので、今回の私のまとまらない文章よりも的確にRideを知ることが出来ると思う。
シューゲイーザー及びRide初心者はこの盤から購入するのが実はお勧めかもしれない。


おわりに

ところでキュウリパック、英語ではCucumber Silce Facial Packと呼ばれているそうだが、この美容法がいつ登場したのかは正確には分からない。
しかし、本作がリリースされた1992年当時、少なくとも日本において物珍しかったことは間違いない。
そしていくら美肌効果があったとしても絵的には相当間抜けな格好であり、それを逆手にとってクロスカウンター的にジャケ絵に使ったRideの勇気は今考えても唸らせるものがある。
もちろん、これが実写ならまた印象は変わっていただろう。
Dinosaur Jr.か、Sonic Youthか、実写のジャケ絵だとそういった生々しいノイズサウンドをイメージさせたかもしれないし、恐らく手に取ってレジまで持って行ったかと問われると答えに苦しむ。
このカラフルポップで間抜けな絵柄だったからこそ、どこか心象に訴えかける何かがあり、結果的にそれは見事にRideの知名度を上げるものとなったのだ。
そう、少なくとも、私にとっては。

結論として、ジャケ買いとは音楽を楽しむ1つの冒険手段である。
たとえそれが失敗であったとしても、必ずや自分の音楽嗜好史にとって意味のあるものである、と私は確信している。
今やCDというフォーマットはダウンロード販売に押され、ジャケ絵の存在感も薄れてしまったように見受けられるが、あえて今だからこそジャケ買いの素晴らしさを世に伝えたいと思う。

全ての音楽好き達よ、書を捨て、街に出て、今こそジャケ買いしよう!





Going Blank Again
Ride
Going Blank Again
曲名リスト
1. Leave Them All Behind
2. Twisterella
3. Not Fazed
4. Chrome Waves
5. Mouse Trap
6. Time Of Her Time
7. Cool Your Boots
8. Making Judy Smile
9. Time Machine
10. OX4
11. Going Blank Again
12. Howard Hughes
13. Stampede
14. Grasshopper

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