ねおでっど日記

間違いなくたぶん、個人の主観です

EDMを誉めるなら夕暮れを待て




はじめに

先日、SEKAI NO OWARIの深瀬氏が上記のような興味深いツイートをしていたのでそれについて考察してみたい。

Twitter上ではすぐに物議を醸していたものの、最初にお断りしておくが、私はこのバンドについて詳しくない。
バンド名がまだ「世界の終わり」名義の頃に何度かYoutubeなどで拝聴したが、今のようなアルファベット表記に改名してからはご無沙汰である。
少なくとも私が聴いたことのある彼らの音楽からは、それほどElectronicな、所謂EDM的な雰囲気は感じなかったように記憶しているのだが、そもそも深瀬氏本人が本気で発言した可能性自体低く、私はファンに対するある種のリップサービスではないかと受け止めている。

本人が該当ツイートを翌日に削除してしまった為、その真意はともかくとして、ひとまず、今回の深瀬氏の発言からもたらされる2つの論点について確認する。

1つは、ジャンルに関してはアーティスト(もしくはレーベル)主導であるという事実。
もう1つは、EDMという言葉自体がまだまだ日本国内に浸透しきれていないという現実。

あらかじめ申し上げておくが、ここでSEKAI NO OWARIがEDMなのかどうか、という議論は避けたい。
結論から言えば、EDMの定義それ自体が日本国内ではまだまだ不明瞭な為、およそ建設的な話になりそうもないのだ。
従って今回は上記2つの論点に的を絞りながら、それこそダラダラと最近私が感じたことを記事に残しておこうと思う。
私も大袈裟に評論家気取りをするつもりはさらさらないので、どうぞ、一般人の戯言として暇潰しにお読み頂ければ幸いだ。


参考:SEKAI NO OWARI - 炎と森のカーニバル

(EDM云々は別として、J-popとしてはとても優秀な楽曲。)


ジャンルのコンセンサス

まず、世の中の音楽について、ジャンルは一体誰が決めているのか、という点について考えてみる。
これについては諸説あると思うのだが、私が1つの基準としているのはアーティスト自身から発せられる言葉だ。
短絡的に言えば、アーティスト自らがロックと言うならばそれはロックであり、メタルと言うならばそれはメタルである。
もちろん、言うだけなら至極簡単な話で、果たしてそれが適切であるのかどうか、それは市場のコンセンサスを待たなければならない。
具体的にはレーベル、ディストリビューター、リスナーによる3者の合意と共感が得られた時、ジャンルは自ずと定着するものと認識している。

例えば、どこからどう聴いてもポップスなのに、アーティスト本人が「俺たちはパンクスだぞ(怒)」と言い張る場合、早々に市場からコンセンサスを得られるならば話は早い。
つまりそれは疑いようのないパンクであり、さらに言えばポップパンクとも解釈することが出来る。


参考:Blink-182 - Up All Night

(2009年から活動を再開したUSポップパンクの代表格。)


似た案件で、どこを聴いてもメタルなのに、アーティスト本人が「いや、俺たちはハードコアやってんだよ(怒)」と主張したこともあった。
そこで市場は苦肉の策としてメタルコアという言葉を産み落とし、今や一大勢力に発展した経緯もある。


参考:Rise To Remain - Power Through Fear

(Iron MaidenのBruceの息子がVocalを務める。彼らがハードコアと主張する理由が透けて見えるようだ。)


そもそもアーティストとは何かにカテゴライズされることを極端に嫌う生き物である。
これは音楽のみならず、原則的には唯一無二の芸術を体現しようとしているわけで、考えてみれば当然の帰結だ。

ただ、私たちリスナーはその利便性故に何らかのジャンルにカテゴライズされることを暗に望んでいる。
それはアーティストのみならずレーベルやディストリビューターにとっても大切なビジネス構造であり、ここにコンセンサスの重要性が存在する。

結果的に、そこに僅かでも齟齬が生じると違和感という得体の知れない霧がアーティストの実像を覆い隠してしまうことになる。
つまり今回の深瀬氏による発言はこの霧を発生させるに等しいものだったとも言え、加えて、未だにジャンル論争が私たち文明社会に潜んでいることも露呈したと言えよう。

ファンにしてみれば、アーティストの一挙手一投足には注目すべき価値があって当然だ。
今回のようにジャンルの話に限ったことではなく、様々な形で情報の受け手側となる私たちは、抜本的なリテラシー向上の必要性を考える時期に来ているのではないだろうか。


プログレッシブハウスの憂鬱

さて、ここで一旦概論を切り上げ、各論に入っていきたいと思う。
お題となるのは細分化の激しいクラブミュージックの話だ。

まず、プログレッシブハウスと聞いてあなたはどんな音を思い浮かべるだろうか。
クラブミュージックにあまり明るくない方には少々ぶしつけな質問だが、気にせず読み進めて頂きたい。
以下にプログレッシブハウスと呼ばれる楽曲をいくつか挙げてみる。

A:Hardwell - Everybody In The Place

B:Shingo Nakamura - Side Trip

C:Bionic Rockers - Code 0320


まずは上のA、B、C、3つの曲を聴き比べてみて欲しい。
果たして、音楽性の違いがお分かり頂けるだろうか。
(もしあなたが、万が一でも同じように聴こえるなら、明日にでもお近くの耳鼻咽喉科を受診すべきかもしれない!)

3曲ともにその雰囲気も構成も音使いも、全く異なることにお気付きだと思うが、驚くべきことに、DJ御用達の音楽配信大手Beatportでは、この3曲は同じプログレッシブハウスというジャンルの枠内で販売されているのだ。

かつてプログレッシブハウスと言えばSashaやJohn DigweedといったHouse界の重鎮が奏でるディープでスペイシーな楽曲(Cタイプ)を総称していたものだが、近年は全く意趣の異なる音楽性が流入し、一見して混沌とした状況にあると言わざるを得ない。
少し前からプログレッシブトランスと呼ばれていた楽曲群(Bタイプ)が流入してきたことも混乱の一因だが、それをさらに混沌化させたのは間違いなくエレクトロハウスの亜種、つまり海外製EDMと私が呼んでいるパーティー系ハウスの「乱入」である。

今ではこのAタイプのようなド派手なEDM系楽曲がプログレッブハウスチャートの上位を独占しており、私自身、BやCの楽曲を探すことについてここ数年かなり苦労している。
これを弊害と呼んでいいものか、当初は私も悩んでいたのだが、やはりコミュニケーションを取る上での不便さは否めない。
例えば相手がプログレッシブハウスという言葉を発した時、どういった楽曲をイメージすればよいのか、2014年の今は少なからず躊躇してしまうからだ。

重ねて申し上げるが、ジャンルという分類思想が生まれた背景は、ユーザーはもちろん、売り手側にとっても利用価値が高く、利便性に優れているからだ。
言い換えれば、芸術分野でもある音楽という得体の知れない実体を、より噛み砕いた短い言葉によって、簡単にイメージを伝達出来るというメリットがある。

新人のロックバンド、と言われれば私達は容易に音を想像出来るはずだ。
他方、メタルの世界にはメロハーという言葉が日本にも古くから存在するが、究極的には、バンドの紹介はその一言で足りる。


参考:The Poodles - Cuts Like A Knife

(母国スウェーデンでも絶大な人気を誇るメロディアスハードロック、所謂メロハーの典型。)


このプログレッシブハウスの膨張は必ずしも円滑なコミュニケーションを推進するものではなく、ジャンルという存在意義を根底から覆すものに他ならない。
私はここに市場のコンセンサスが本当に得られているのか、甚だ疑問を感じている。
ジャンルにまつわる話は全て、簡潔でなければ意味がないのだ。

好例として、音楽評論家でもある渋谷陽一氏の造語に「産業ロック」というものがある。
文字通り、ビジネスが最優先された軟弱系ロックとも解釈出来るが、20年前と今では微妙に受け止め方のニュアンスにも変化があるように感じる。
しかし幸運なことに、当時の言質と思われる文章がWikipediaに掲載されていたので、こちらでも引用してみたい。


「ひとつひとつのアヴァンギャルドな試みが積み重なって音楽は進んでいく。そんな努力がない限り、音楽は動脈硬化するだけであり、産業ロックとはその動脈硬化なのである」(渋谷陽一氏)


ここで産業ロックの部分をEDMに置き換えることは果たして強引だろうか。
私が思うに、両者はどことなく似ている気がする。


参考:Journey - Don't Stop Believin'

(当時はForeignerやTotoなど北米で好セールスを記録していたAOR、つまりポップロックが標的となった。)


EDMはジャンルなのか

本質へ向かうために、さらに話を進めよう。
2014年4月現在、BeatportやアメリカのAmazonにおいて、EDMというカテゴリーは存在しない。
先ほどからプログレッシブハウスという言葉を頻繁に出しているが、皆さんもご存知、David GuettaやAvicii、Tiestoなどの昨今のEDMを代表するアーティスト達は大概にしてその枠に収まっている。
つまり、海の向こうではEDMとはジャンルではなく、一種の社会現象、つまりムーブメントの形態であることが分かる。


参考:Hardwell Live @ Ultra Music Festival 2014

(今のEDM現象を理解するのにHardwellのステージは最も最適な教科書である。)


私がちょうど1年前に書いた記事(「EDMが日本で流行らない3つの理由」)では、「海外製EDM」という言葉を使ってどういう音楽を指すのかについて説明したが、果たして、EDMとはジャンルなのか、ムーブメントなのか、当時の日本国内ではそこがまだ曖昧なせいで今一つ盛り上がりに欠けていたのは言うまでもない事実である。

元々、EDMはElectronic Dance Musicの略語であり、広義で言えばDaft PunkやChemical Brothersなども当然に含まれており、急に今始まったような新しい音楽ではない。
しかし、例えばDaft Punkは自らをEDMとは呼ばない。
比較的、プログレッシブハウスの音楽性に近いDeadmau5でさえ、EDMにカテゴライズされることを極端に嫌っている。

なぜか。

それはEDMというマーケットがあまりにも巨大産業化し、所謂80年代に勃興した産業ロックのような現象が急速に進んでしまったからとは言えないだろうか。
それを証拠に、いつからか楽曲の良し悪しよりもDJの年収や観客動員数が注目の的となり、さながら第一線で活躍する今のEDM系アーティストは衆人環視のセレブ状態である。

もちろん大御所と呼ばれるEDM系アーティストの中にはそんなシーンの危機感を肌で感じる者もおり、例えばAviciiは「True」、Skrillexは「Recess」という作品で、それぞれが実験的要素を盛り込んだ傑作を世に輩出している。


参考:Skrillex - Recess (Album Teaser)

(Skrillexが満を持して放つ1stアルバムは先月にリリースされたばかり。)


これは文字通りネクストEDMの進撃の証左と言えよう。

過去に私は、EDMが日本で成功しにくい理由として「(曲が)派手すぎる」「(曲を)楽しむ場所がない」「シーンを引っ張るDJがいない」という3つに絞って論じたのだが、海外、特にアメリカや欧州ではこの3つの条件が全てクリアされており、ビジネス的に成功しない方がおかしい、という状況が続いている。
そうでなければ数万人規模のフェスが定期的に開催されるなど、土台無理な話である。

日本ではこのEDMという言葉の定義が今なお不明瞭であることは否めず、それは現場のDJ間においても各々で解釈が異なる為、もはやコンセンサス以前の問題があるのかもしれない。
(私の周辺では「True」以降のAviciiがEDMなのかどうかという論争もあるぐらいだ。)


参考:Avicii - Wake Me Up

(カントリーというエッセンスを加え、チャートミュージックに本格的な侵攻を試みた意欲的作品。)


ただ1つだけ言えるのは、EDMとは常にDJ主導であるべき音楽だということ。
2014年の現時点で、少なくともバンド形態のダンスミュージックはEDMの中心にはない。
ここのボタンを掛け間違えてしまうと、ではサカナクションはEDMなのか、という話にもなってくる。

もしもこの論法が成立してしまうと話はややこしくなる。
例えば少し前に全編ダブステップなアルバムをリリースしたKornでさえEDMということになる。
それはバンドにとってもリスナーにとっても不幸なことではないだろうか。

少なくとも、DJという限りなくパーソナルな存在が数万人規模のオーディエンスを相手に孤軍奮闘する姿がEDMの本質に近い。
この点に誤解が生じてしまうとEDMという言葉が1人歩きしてしまう恐れがあるので、注意喚起が必要と思われる。


参考:Korn - Narcissistic Cannibal

(2011年にSkrillexとコラボしたこの楽曲はHR/HM方面でも話題となり、未来型ミクスチャーの可能性を示した。)


浸透しきれていないEDM

話が長くなってしまって申し訳ないが、ここでようやくもう1つの論点に言及したい。
冒頭でも述べたが、EDMという言葉自体がまだまだ日本国内に浸透しきれていないという現実についてだ。

これは深瀬氏のツイートに対する反応を見て実際に感じたことなのだが、EDMという言葉すら知らないという方が意外にも多かったのだ。
もちろん、冗談には冗談で、という切り口でそのように反応している方もいるとは思うが、それにしても、都市圏で開催されているEDM系のクラブイベントの盛況ぶりを考えると、少々面食らう状況であることに違いはない。

ただ、かつて全国的に流行したパラパラやトランスのように、EDMが日本全国津々浦々で盛り上がっているような空気が依然として漂っていないのも現実だ。
確かにiTunesのダンスチャートなどではEDM系と呼ばれるアーティストの作品が上位にランキングされるのも珍しくないが、音楽購入者の7割が未だにCDというフォーマットを購入しているこの日本において、音楽配信のみであるiTunesのチャート結果だけでは少々説得力に欠けている。
(そもそもiTunes Music StoreはApple製品利用者のみが購買出来る販売店であり、今年になってようやくAndroid版がリリースされたばかりだ。)


参考:「音楽鑑賞にかける金額は1か月1000円未満が6割、いまだ7割がCDを購入」音楽鑑賞に関する調査(クロスマーケティング社)


EDMはかつてのパラパラやトランスと違い、クラブミュージックと長らく冷戦状態にあったロックやパンク、メタルといったスタジアム系のバンドサウンドとの融和の可能性も秘めており、そして90年代に活況を呈したミクスチャー音楽の未来としての存在価値もある。
実際、海外でのフェスミュージックの主役はバンドサウンドからEDMに移行しつつあり、ここに各ジャンルにおけるリスナー間の共感が得られれば共存共栄も夢ではない。
もちろん、日本がそこに辿り着くまでには、EDMがさらに日本人好みの曲調に変化することも求められるし、だからこそダンスポップに傾倒したAviciiは好意的に受け入れられたのだと、容易に推測することが出来る。

願わくば、今年日本でも開催されるULTRA JAPANなどの大型フェスを経て、EDMという文化そのものが日本でも広く浸透して欲しいと思う。
2000年代初頭に私がトランスブームを仕掛けていた頃と違い、取り巻く状況は芳しくないが、より洗練されたネクストEDMの隆盛は日本のクラブミュージックの発展にも欠かせないものだ。
EDMと距離を置き、今はテクノやハウス、ドラムンベース、ヒップホップなどで活動しているDJ及びクラブ関係者にとっても、この影響でパイの規模が広がることの意味は大きいと思われる。


参考:BT - Flaming June

(2000年代初頭に流行したトランスミュージックは、このような欧州産のユーフォリックなトランスがきっかけだった。)


加えてJ-popが死に体な状況である今、CTSやBanvoxなど国内勢の奮起はやがて大きな流れになることも予想される。
オリジナルが流行らないのであれば、流行るようにアレンジメントすればいいだけの話で、それは古来より私たち日本人が得意としてきたことではなかっただろうか。
たとえそれがガラパゴスと揶揄されようが、文化であることに異論はなく、裾野が広がることで可能性も無限となる。
安直な海外製EDMのコピー作品が氾濫するのではなく、あくまでも日本人好みのダンスミュージックがこの辺で盛り上がってくれても罰は当たらないだろう。


参考:CTS - Yume Be The Light

(日本人に馴染みやすいメロディとアレンジ、そして心地良い音色が味わえる近未来型のJ-pop。)


おわりに

本来、ジャンルの話は不毛である。
特に日本では古来より分類化については神経質なところもあり、逆にそれがファンの間で均衡を保ってきた側面もある。
要するにロック、メタル、パンク、ヒップホップ、トランス、テクノ、ハウス、、、というように、それぞれ住み分けがあったからこそ不毛な争いは避けられてきたのだ。

未然に争いを防ぐ。
流石、和を以て貴しと成す民族である。

対して、そんなこまけぇことはいいんだよ的、大陸風の思想に基づいた黒船が昨今のEDMと呼ばれるものならば、すでに述べてきたように、この枠の中ではトランスであろうとダブステップであろうと、さしたる問題は生じない。
DJ主導であり、尚かつElectronicなDance Musicなら大抵は許される世界だ。
(もちろんアッパーなパーティーミュージックであることが大前提だが。)

そしてそこには劇場型としての盛大な演出がDJ及びイベント主催者には求められる。
加えて、先ほども申し上げたようにこの日本では楽曲自体の世界観や質も問われることになるだろう。


参考:Sub Focus Live from The Roundhouse

(DJという1人の演者によって成立する現代のコンサート。)


実際問題、日本を取り巻く状況は依然厳しい。
風営法待ったなしの法的な国内事情もあるし、そもそもがレイブミュージックの話はタブー化している側面もある。
そうした中で海外発の文化を極東の島国に住む私たちがどう咀嚼し、飲み込み、そして味わっていくのか。
ここは大変興味あるところなので、引き続き、私はこのシーンの行く末を興味深く見守っていきたいと思う。


EDMを誉めるなら夕暮れを待て。


まだ陽は昇ったばかり。
判断するには時期尚早である。



I Am Hardwell
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注:件のツイートに関しては、深瀬氏本人が削除してしまった為、真意は謎のままである。一応、本記事では論点を提起するために冒頭でこのツイートを掲載しているが、もし本人から削除の要請があれば応じる所存である。