そもそもダンスミュージックとは、その名の通り、踊ることを前提に作られた音楽である。
近年話題のEDMも、ElectronicなDance Musicという意味であり、元々は広義に使われていた言葉であったことは今ここで述べるまでもない。
それはさておき、このダンスミュージックについて、日本はよく世界から遅れているとの指摘が目立つ。
文化やDNAの違い?
理由は様々あるだろう。
その中で私が気になっているのは、いわゆる「聴き方」がまだ広く浸透していないのではないかということ。
そこで今回はこの聴き方についてDJ的な視点から勝手な意見を述べることにする。
小難しい音楽用語などは一切使うつもりもないので、どうぞ気楽に読み進めて欲しい。
まずはじめに、今回はダンスミュージックの中でも「4つ打ち」と呼ばれる形態を例に話を進めたい。
この4つ打ちとは、1小節に四分音符がドン、ドン、ドン、ドン、と4回刻まれる形態の音楽を指している。
ジャンルで言えばハウスやテクノ、トランスなどをイメージしてもらえばいい。
DJ同士の会話ではこれを「キック」と呼ぶが、ロック畑の人からすればバスドラだろ、という声もあるだろう。
しかしこの際、そんなことはどうでもいい。
この4つ打ちが2小節続けば、頭から数えると「1、2、3、4、5、6、7、8」である。
結論から言うと、ダンスミュージックと呼ばれる類いの音楽は全てこの「1、2、3、4、5、6、7、8」が繰り返し連続して完結している。
仮に「1、2、3、4、5、6、7、8」を1セット(これを1エイトと呼ぶ)とするならば、4セットもしくは2セットを1つの塊として曲の展開が変わるように作られているのが現代ダンスミュージックの基本構造である。
これをDJの世界では、少なくとも私の周りでは「4-8(フォーエイト)」と略して会話をする。(つまり、8カウントが4セットという意味である。)
もちろん、厳密には8カウントでは括れないイレギュラーな楽曲があるのも事実だが、基本的なダンスミュージックの骨格は、この連続する「4-8」の集合体である。
ヒップホップなどでは「2-8」を意識する場合が多いのだが、ひとまずはこの仕組みを把握してもらいたい。
冒頭でも述べた通り、ダンスミュージックとは踊るために作られた音楽であり、そのためには整然と反復する音の連鎖、つまり規則的な機能性に特化する必要がある。
例えばダンサーが次の動作に移行する時、カウントに困惑してしまうような楽曲ではダンスミュージックとして欠陥があると言わざるを得ない。
ちなみに、ダンサーがスタートアップの動作に入るカウントの掛け声は「5、6、7、8」である。(これは「1」から動作を開始するため。)
ここで勘のいい方はお気付きだと思うが、この「1」が肝要なのである。
例えばそれは曲の始まりであったり、歌の出だしやブレイクの頭、サビの1拍目などが分かりやすい「1」と言える。
そしてその「1」から8カウントが始まり、「4-8」や「2-8」が連鎖していくのだ。
(セットは偶数である場合がほとんど。つまりダンスミュージックは踊りやすいようにシンメトリー構造となっている。)
まずはこの単純な構造を頭で理解しておくことが必要だと思う。
そう、声に出して読みたい日本語のように、曲を聴きながら「1、2、3、4、5、6、7、8」とつぶやくのもアリだ。
それこそ手拍子したって怒られやしない。
しばらくすると自然に8カウントが身体に染み付き、気が付けば初めて聴く曲でも、次の展開が手に取るように理解出来るはずだ。
もしかすると、普段何気なく聴いていた音楽にも意外な発見があるかもしれない。
特にDJ MIXモノは曲と曲をどこで繋いだのか、8カウントの法則に従うとその構造を簡単に把握することが出来るので、リスナーの楽しみ方に幅が出るのは間違いない。
次の曲にすぐ繋ぐことが出来るのになぜこのDJはあえて「4-8」分の空間をわざわざ取っているのか、などと詮索する楽しみもある。
何れにせよ、曲の構造さえ分かってしまえばこっちのものである。
「8カウント」そして頭の「1」が分かれば、明日から誰でもDJやダンサーを目指すことが出来るのだ。
今回は4つ打ちを例に挙げたが、別にヒップホップでもダブステップでもドラムンベースでも、キックがカウント出来る音楽なら何でもいい。
この「8カウント法」は多くのジャンルに適合する。
それこそ巷に流れるJ-Pop系大衆音楽やビルボード系洋楽ポップスにも応用可能だ。
特にここ数年はサカナクションやSEKAI NO OWARI、そしてCTSなど邦楽勢も、ダンスミュージックを取り入れた楽曲が増えてきているのでいい機会だと思う。
そこで新たな発見とまではいかなくとも、「8カウント」さえ分かればダンスが苦手な人でも身体を揺らすことは容易くなる。
このカウントの仕方を理解することはDJであってもお客さんであっても損することは絶対にないのだ。
何を隠そう、私の願いはこの日本で1人でも多くの人がDJやダンサーという趣味を持つこと。
それこそがダンスミュージック先進国へ近付く1つの近道だと信じて疑わない。
そして教育現場でのダンス必修化において、この「8カウント法」が生徒たちにきちんと浸透することを、ただただ願うばかりである。