Nigel Good「Space Cadet」★★★★★
カナダ出身のElectronic Music Producer、Nigel GoodがMonstercatより新作を発表。
果たしてその中身は、前作「Nothing Out Here」におけるProgressive House路線を踏襲しながら、リズムセクションやアレンジメントにおいて飛躍的な進歩を遂げた傑作となった。
ひとまず、同系統のジャンルにおいては確実に頭1つ抜けた存在となったことは間違いない。
それほどに繊細で理知的なソングライティングが随所で光り輝く作品である。
これはNigel Goodに限った話ではないが、Silk MusicやMacarize、EnhancedなどのレーベルからリリースされるProgressive House系音源は、ここ1〜2年で急激に増えた印象もあり、良くも悪くも均質化されて新鮮味が薄くなっていたこともある。
元々はChicaneやATBが築き上げたジャンルでもあり、近年ではDinkaがこの手のサウンドでヨーロッパを中心に一世を風靡したことは記憶にも新しい。
しかし、ジャンル発祥からすでに20年近い時を経た今、機材の進歩による楽曲の奥行きは広がったものの、何とも言い知れぬ閉塞感が漂っていたのは事実だ。
ここからは推測だが、Nigel Goodはそうした現状を打破すべく、まずはNu Discoにおけるアナログとデジタルの融合について研鑽を積み、さらにLiquid系DnB音源が豊富なLiquicityレーベルにも触発され、特にRameses Bのスペイシーな世界観と躍動感あふれる哀愁的旋律から多大なインスパイアを受け、それらを自身が得意とするメランコリックな世界観に落とし込み、紆余曲折を経て本作の完成に漕ぎ着けたのではないだろうか。
これはある種レトロフューチャーなベクトルの方向性だが、スウェーデンのClaes Rosenの音楽性ともよく似ており、両者ともにProgressive HouseとNu Discoのクロスオーバーが作曲の起点となっていることは注目に値する。
つまり、Electronicな音楽であっても歴史的参照が必要であるということを如実に示したトピックと言えるだろう。
たとえ歴史は浅くとも、過去を反芻することは決して間違いではなく、むしろこのような新機軸の作品が生まれることをNigel Goodは体現したのだ。
加えて、ジャケットアートワークから迸るコンセプチュアルな構成も素晴らしい。
まるでDJ Mixのように紡がれていく美しい楽曲の数々には思わずため息が出てしまう。
ただ、昨今のメインストリームにあふれるEDM系楽曲とは確実に一線を画す内容であり、Electronic「Dance」Musicを求めるリスナーには少々食い足りない作風であることは明記しておく。
あくまでも純粋に、メロディアスでアトモスフィアな音楽が好きな方へ、この私が自信を持ってお勧め出来る逸品である。
ようこそ、Space Cadetの世界へ。
(注:Space Cadetはロバート・A・ハインラインによるSF小説「栄光のスペース・アカデミー」の原題であり、宇宙飛行士候補者という意味もある。)
【Nu Disco】Nigel Good - Don't Want To Go - YouTube