Cinnamon Chasers「Great Escape」★★★★★
アトモスフィアでメロディアスなシンセウェイブサウンドが大好きな皆様へ。
今年、Cinnamon Chasersがようやく本流に戻ってきた。
今宵はお祝いだ。
この店で一番高い酒を持って来てくれ。
そんな気分にさせてくれる、爽快感あふれる会心の一撃的な作品である。
Cinnamon Chasersこと、Russ DaviesはAbakus名義でも活動する多才な人物。
正直なところ、Cinnamon Chasers名義とAbakus名義のサウンドの違いは微々たるものなので、彼の中でどういう住み分けをして製作しているのか、未だに謎でもある。
ただ、世間的にはCinnamon Chasersを世に知らしめた名曲「Luv Deluxe」の存在が大きいと思う。
特にPVの出来は突出しており、これまでに世界各地のVideo AwardsやFilm Festivalで数々の賞を受賞していることは記憶にも新しい。
(参考:Luv Deluxe Music Video)
Cinnamon Chasers - Luv Deluxe (Music Video ...
「知らない女(男)には気をつけろ」というテーマに沿って繰り広げられるPOV風のドラマだが、Cinnamon ChasersのミニマルでメロディアスなDnB調の楽曲がスタイリッシュな展開に華を添えている。
この「Luv Deluxe」は2009年発表の「A Million Miles From Home」に収録されており、続く2011年には名盤「Science」を発表し、Cinnamon Chasersの音楽性はめでたくそこで完成された経緯がある。
要するに、80年代シンセウェイブを骨格としながら、極めてモダンなアレンジを肉付けすることによって生まれたレトロフューチャーなNu Discoサウンドの塊、それがCinnamon Chasersなのである。
ところが2012年発表の「Dreams & Machines」から雲行きが怪しくなる。
迷走とまでは言わないが、80年代に傾倒し過ぎる余り、所謂フューチャー感が大幅に後退してしまったのだ。
これにはファンの間でも賛否両論が渦巻いたと思うが、私としてはオールドスクールで退屈なアレンジにがっかりした記憶がある。
また、体感的な心地良さ、これはエレクトロニカやアンビエントを聴く感覚に近いのだが、そういった柔和なニュアンスさえバッサリと切り捨てられたかのような雰囲気もあり、ここ数年は「A Million Miles From Home」と「Science」をリピートして過ごす毎日だった。
そこでこの「Great Escape」である。
結論から言えば、本作は全盛期Cinnamon Chasersを彷彿とさせるNu Discoサウンドに彩られた傑作である。
何と言っても、オープニングの曲名からして「Superwave」である。
思わず、並々ならぬ決意表明みたいなものを感じてしまったのだが、いかがだろうか。
続くタイトル曲は「Science」に収録されていてもおかしくない、アトモスフィアでディスコテックなサウンドそのものであり、この時点で私もヘビロテを確信する次第。
全体を通して、不快な音色が皆無であり、引き算発想から生まれたシンプルで情緒的な楽曲が整然と構成されているので、旧来のファンは安心していいと思う。
終始穏やかで、多幸感あふれるアルバムだ。
終曲のタイトルが「Dream Weavers」というのも、なるほど、象徴的である。
このような本作について、例えばパンチに欠ける、といった批判は的外れだと思う。
そもそもが「Luv Deluxe」のヒットでのし上がったアーティストである。
あの曲はパンチ力というよりも包容力あふれるシネマティックな世界観が評価されたはず。
そう考えると、原点回帰という言葉もちらついてくる。
ただ、原点どころか、さらにフューチャー感を増して格段の進化を遂げたように感じるのだが、果たしてこれは気のせいだろうか?
いや、恐らく、Cinnamon Chasersはここからさらにグレードアップしていくだろう。
本作を目の前にして、これはもう確信に近い。
改めて、シンセウェイヴの未来は彼に託したいと思う。
Welcome back, Cinnamon!!
Cinnamon Chasers - Blue Skies (2015) - Audio ...