David Guetta「7」★★★★☆
今年で52歳になるDavid Guetta(以下、親しみを込めてゲッタさん)が7枚目となるフルアルバムをリリース。
昨今のEDMシーンの火付け役とも言うべき存在ですし、その動向は常に注目を集めてきたとも言えます。
今回も2枚組のボリュームですが、これまでと違うのはその内容。
驚いたことに、1枚目は現在のEDMシーン及びビルボードを意識した売れ線志向なのですが、、、
2枚目に関しては自身のHouse志向が壮大に炸裂した内容となっているのです。
(ご存知かと思いますが、Jack Backはゲッタさんの別名義となります。)
『7』はキャリアをスタートした当初に一度戻ってみようと思い、自分の全周期を表現した内容となっている。僕ははじめアンダーグラウンドなハウスミュージックからスタートし、よくパリのアンダーグラウンドなレイヴやクラブで回していたんだけど、そのときみたいに商用目的など一切なく、純粋に楽しみながら音楽を作りたいんだ。今回そんな音楽を愛する気持ちだけで、自分が好きな色んな種類の音楽を作ってみたよ。by David Guetta
あまり核心に触れることなくゲッタさんは仰ってますが、今回の新譜に関しては、今のEDMシーンを象徴している作品と言えるのではないでしょうか。
以下、僕の個人的な見解を述べます。
消えた4つ打ち路線
4つ打ちとはHouseやTechno、Tranceなどのダンスミュージックを総称しますが、本作の1枚目については、純粋な4つ打ち構造の楽曲が明らかに減少しています。
前作「Listen」(2014年発表)では「Lift Me Up」や「S.T.O.P」といった分かりやすい4つ打ち系楽曲が要所要所を引き締める役割を担っており、とても印象的でした。
ところが本作では、今のビルボードチャートをそのまま絵に描いたような、ブラックコンテンポラリー色が非常に強い内容となっていることは否めません。
これは日本のチャートミュージック(特に90年代以降)にも言えることですが、US発祥のブラックコンテンポラリーはすでに全世界を席巻するほどの勢いがありますので、EDMシーンの火付け役でもあるゲッタさんがこれを無視出来るわけがありません。
前作ではそれも拮抗していましたが、本作では完全に白旗ムード。
ゲッタさんのカラーでもある、哀愁感のあるHouse系楽曲は完全に表舞台(売れ線)から消えたと言っても過言ではありません。
別名義でカウンターする意義
しかしですよ。
ゲッタさんの凄いところは、それで腐ることなく、別名義で自身の趣味を追求し、尚且つ本作で2枚組として一緒にリリースしちゃったところにあります。
つまり、自身の音楽に対するカウンターを自分でやっちゃった。
これはもうマッチポンプとかいう簡単な言葉では片づけられない事象です。
彼がフランス出身だから、という言い方はあまりしたくないのですが、US系ブラックコンテンポラリーという巨大なローマ帝国に1人立ち向かうグラディエーターのように、果たしてこの行為は勇敢にも見えてしまいます。
そもそもがDJとしてキャリアをスタートしているだけに、彼としてもその意地を見せたのではないか、というのが僕の率直な感想です。
ダンスミュージックは2極化する
恐らく、本作の内容そのものがダンスミュージックの今を象徴しているように思えてならないのですが、こうしたオーバーグラウンドとアンダーグラウンドの2極化は今後ますます加速するだろうと僕は推測しています。
元々、アンダーグラウンドカルチャーでもあったクラブミュージックが一般層に浸透した結果、今のEDMという大きなビジネスマーケットが誕生しました。
しかしながら、本来チャートミュージックに対するカウンターカルチャーであったものが、逆にチャートミュージックとして受け入れられた昨今、逆転現象が起こり始めています。
今回のゲッタさんの2枚目がそうですが、中身はアッパーなHouse系というよりも一見地味なDeep Houseの趣向なんですよね。
つまり、売れ線のダンスミュージックがポップになればなるほど、カウンターはその切っ先を鋭くしていくという、典型的な例だと思います。
(DeepなものはさらにDeepに、HardなものはさらにHardに。)
アメリカとヨーロッパの戦い
この話、もう少し踏み込んでいきますと、音楽カルチャーはアメリカとヨーロッパの戦いの歴史でもあります。
これはダンスミュージックに限った話ではなく、古くはビートルズからパンクムーブメント、そしてHR/HM界隈まで関係する物語です。
現在はご存知の通り、ブラックコンテンポラリーというUS産の音楽カルチャーが世界のチャートを征服しつつある状況です。
(日本はすでに征服されました。EXILEを参照してください。)
記憶に新しいところで、この前逝去されたAviciiにしても、自身の活路をアメリカのカルチャーに求めていましたよね。
極論になるかもしれないので軽くスルーして欲しいのですが、DJの皆さんは果たして自分が今、どちらの方向(アメリカorヨーロッパ)を向いて音楽に接しているのか、今一度確認するのも良い機会だと思います。
それは自分の趣味嗜好を考えるきっかけとしても。
(今回のゲッタさんについては、明らかに1枚目をアメリカ向け、2枚目はヨーロッパ向けに制作・発信しているような気がします。)
ということで、僕は1枚目よりも2枚目がヘビロテになりそうですが、上に紹介した「Overtone」なんて実際に現場でもプレイすることがあるかもしれません。
「Orion」なんて完全にMelodic House & Technoの領域ですし。
(Tiestoもぜひこのゲッタ商法を取り入れて欲しいものです。)
まとめますと、今後はアンダーグラウンドカルチャーが面白くなっていきます。
ゲッタさんの新譜を聴いて、確信したところです。
いや間違いなく、たぶん。