「IT/イット “それ”が見えたら、終わり。」(2017年)★★★★☆
昨年、映画館でも観た作品ですが、再び自宅でも鑑賞。
いやー、テンポも良くてなかなか面白いですよね。
本作は1990年に公開された映画「IT」のリブート版ですが、非常によくまとまっていると思います。
恐怖演出にしても、劇中の子役たちと同じぐらいの年齢の時に観たら、ちょっとしたトラウマになっていたかもしれません。(冒頭の片腕噛み千切られるシーンなど)
監督はまだまだ無名のアンディ・ムスキエティという方。
恐らくこの方が続編も撮ることになると思いますが、ぜひ期待して待ちたいところです。(予定では2019年9月公開)
ちなみに、本作の脚本家でもあるゲイリー・ドーベルマンは「死霊館」のアナベルシリーズを手掛けた方です。
まずはこの脚本について解説したいと思いますが、本作が非常によくまとまっているという印象はプロットポイントの上手さが挙げられます。
要するに主人公たちが行動を起こすきっかけとなる各ポイントの設定が絶妙なんですね。
例えば、オープニングから敵役であるピエロ(以下、ペニーワイズ)が姿を現し、行方不明になった弟を探すという課題が主人公に背負わされます。(これをセントラル・クエスチョンとも言います)
次に各登場人物のキャラクター描写が始まり、やがてペニーワイズとの初対決という最初の山場を迎えていくわけです。
その対決は何とか無事に済みますが、その後に訪れるのはキャラクター間の対立。
いわゆる仲間割れってやつです。
そこからしばらく後に関係修復のプロットポイントがあり、子供たちの成長の物語へとテーマが膨らみます。
実はこの辺が本作の見どころと言っても過言ではありません。
(本作がホラー版「スタンド・バイ・ミー」と呼ばれる所以はここにあります)
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ただ、終盤のクライマックスでは、極限まで追い込まれた主人公たちの危機的状況というものがなかなかこちらまでは伝わりませんでした。
ホラー映画について僕が思うのは、エンディング(解決)を迎える前のクライマックスでは、主人公は絶体絶命の状況に陥ることが不可欠ではないかということ。
ピンチからの逆転劇が、ある種のカタルシスを誘発し、爽快感へと繋がるからです。
そういう意味で考えると、本作は中盤まではとてもよく出来ておりまして、ただ、終盤のペニーワイズとの死闘が、文字通りの死闘ではなかったところに、ホラーとしての食い足りなさが残ってしまったように思います。
子供たちが主人公とはいえ、すでに片腕を噛み千切られるシーンが冒頭にあったぐらいですから、そうした身体的なグロ欠損描写含めて、もう少しホラー映画としての後味の悪さみたいなものを残して欲しかったなというのが本音です。
とはいえ、この映画はキャラクターの魅力にあふれた作品です。
特にペニーワイズの魅力は燦然と輝く太陽のように眩しい。
そもそも、このピエロの格好をした道化は一体何者なのか。
諸説入り乱れる昨今、そろそろ明らかにしてもらいたいところですが、本作でもやっぱりその謎は明かされません。
続編で明かされるのかどうか分かりませんが、僕なりに1つの仮説を唱えたいと思います。
それは、本作のペニーワイズは「地球外生命体」ではないかということ。
劇中における有機生物的な動き(口が寄生獣のように開く等)はそれを裏付けるものだと確信しております。
ただ、原作はあのスティーヴン・キングです。
この殺人ピエロの正体を突き止めるには一筋縄ではいきません。
まず考えなければいけない点として、本作では子供のみがペニーワイズの捕食対象となっているということ。
つまり、大人の被害者はゼロなんですよ。
終盤も子供たちだけで対決することになりますし、そういえば当初から周囲の大人の存在や視点というものが極力省かれているんですよね。
こうなってくると、果たしてこのペニーワイズは本当に実在するのか、子供だけに見える幻影ではないか、という話も信憑性を帯びてきます。(ペニーワイズが相手の恐怖対象に化けるところなどはまさに実在そのものを疑ってしまう部分です)
恐らく、スティーヴン・キングの狙いはその辺にあって、つまり事件の背後に潜む社会不安とかモラルハザード、そして人間の闇のような部分をエンタメとしてえぐり出すのがコンセプトになっているのではないかと。
日本だと松本清張のような、社会に対するカウンター的スピリットが創作の根底にあるような気がします。
ちなみに原作は1986年に発表されたものですが、1972年から1978年にかけて、少年を含む33名を殺害したジョン・ウェイン・ゲイシー(別名:殺人ピエロ)をモデルにしたのではないかと囁かれております。
ゲイシーは少年たちを家に誘って強姦した後に殺害した。被害者を誘う手口は「ポルノを観ないか」と誘って地下室に連れ込み、手錠を掛けて動きを封じ、凶器で脅しながら強姦した。その後、多くの殺害方法は少年達が首にかけていたロザリオにボールペンを入れゆっくりねじって首を絞めて殺害するというものであった。死体は床下に埋葬し、その上に石灰を撒いた。時には塩酸をかけることもあった。
ただ、劇中でのペニーワイズの描かれ方というのは本当に超自然的でして、冒頭から「恐らく人間ではない」異形の道化師という強烈な先制パンチを放ってきます。
繰り返しになりますが、ピエロの眼光に力がなくなってその顔がベロンと大きな触手のように変化するところなんて、寄生獣ファンとしてはもう大歓迎でして、これはもうなんとか地球外生命体であって欲しいという、願望のような感情すら芽生えてしまいます。
同じ殺人ピエロでも「道化死てるぜ!」のそれとは明らかに違いますよね。
(でも「道化死てるぜ!」は最高に面白いホラー映画なので未見の方はぜひ)
加えて、これは「死霊館」の感想でも書いたことですが、僕にとって悪魔がラスボスの類いの映画は、ホラーとしてはあまり怖くありません。
キリスト教圏に属する欧米と違い、宗教観や生活観が異なりますからね。
ところが、これを地球外生命体と考えるとですね、本当に怖いんですよ。
この広大な宇宙において、エイリアンは実在しても全くおかしくないですから。
それが不気味なピエロに擬態し、27年ごとに子供をたくさん食べてその生命を維持していると考えてみてください。
これはもう、素晴らしく極上なSFホラーですよ。
さらに言えば、映画というエンタメの性質上、エイリアンを性善説で捉えるよりも、侵略目的の性悪説で描いた方が面白いに決まってるじゃないですか。
少し前に流行った「ストレンジャー・シングス」にしても、謎めいたSF感があるから観ていてこちらも楽しいわけです。
ということで、ペニーワイズは地球外生命体として、人間の子供だけを食べに来た突然変異型のプレデター的存在、という説を唱えたいと思います。ハイ。
そして来年公開の続編でも暴れまくって欲しいと思います。
未見の方は今からでも遅くないので観ておきましょう。
そしてすでに観終えている方は、SFホラーとして再鑑賞をオススメしておきます。
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