Valleyheart「Everyone I Ever Loved」★★★★★
ここ数年で言葉の意味が大きく変わった気がする「エモい」という表現。
元々は音楽ジャンルを指す言葉だったのは言うまでもありません。
少し歴史を遡ると、まずはSex Pistolsに端を発するパンク・ロックのブームがありまして、それがニューウェイヴとハードコアに分派していく流れが分かりやすいかと思います。
ハードコアは激情型とも言えるほどエッヂの効いたサウンドでして、一部はヘヴィメタルカルチャーとも融合するなど、シーン的には混沌を迎えていきます。
当時、NYのハードコアシーンを牽引したSick Of It Allは特に有名ですね。
そのうちに、やがて激情型の楽曲に美旋律なコーラスを取り入れたバンドが出始め、それが「エモーショナル・ハードコア」と呼ばれるようになりました。
これがエモの起源です。たぶん。
かなり端折ってますけど、とにかく、エモの背景にあるのはパンク・ロック魂なのです。
ちなみに、グランジというジャンルもパンクが背景にあります。
両者の違いは曖昧な部分も多いのですが、リアルタイムを過ごしてきた僕の見解としては、NirvanaやAlice in Chainsを筆頭とするシアトル産のオルタナを指すことが多かったですね。
(オルタナティヴ・ロック自体が、反主流という思想でしたから、今だとUSインディー・ロックがその役目を担っている感じですかね?)
前置きが長くなりましたが、エモの話に戻しますと、いわゆる先程のエモコアからさらにポップな音楽性を持つバンドが次々とシーンに現れまして、それらをエモ・ロックとか、エモ・ポップという風に総称していったわけです。
ただ、同時期にはパワー・ポップっていう言葉も出てきたりして、この辺のジャンルの境界線はとても不明瞭です。
例えば、Face To Faceというパンク派生のメロコアバンドは、途中からエモコアというよりエモ・ロックに音楽性を変えました。
今はメロコアに原点回帰しておりますけど、その時代がエモを欲していたというのもあるかと思います。
音楽は、結局のところ、流行に左右されがちな文化という証左の1つですね。

- アーティスト: Face to Face,Steve Croes,Trever Keith,Pete Parada,Scott Shiflett,Chad Blinman
- 出版社/メーカー: Beyond Records
- 発売日: 1999/07/27
- メディア: CD
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そろそろこの辺で本題に入ります。
本日紹介するのはアメリカはマサチューセッツ州出身の4人組、Valleyheart。
彼らはポスト・ハードコアなバンドを数多く輩出するRise Recordsに所属しています。
(Rise Recordsには上でも紹介したFace To Faceも所属。)
これがですね、Face To Face以上に、めちゃくちゃエモいんです。
ハードコアのような激しさはほとんどありませんので、分類的にはエモ・ロックになりますが、楽曲によっては現代USインディー・ロック的な、極めて牧歌的な雰囲気を醸し出していますので、老若男女問わず、全音楽ファンにお勧めしたいぐらいです。
まずはその世界観をMVにてご確認をお願いします。
いかがですか?
僕なんて廃人ゲーマーですから、このイントロを聴いた時は某ホラーゲーのサイレントヒルかと思ったぐらいです。
ところが、メロディラインが始まるとTeenage FunclubやThe Posiesを彷彿とさせるような、絶妙なエモさ加減なんですね。
これは2017年にリリースしたデビューEPの楽曲も同じく、エモの塊と言えます。
まるでUSインディー・フォーク的に静かなイントロから、少し激情的な展開を見せるところが、何とも魅惑的でエモーショナル。
こうした静と動のバランス感覚を体現するアレンジスキルについては、およそ新人らしからぬクオリティではないかと思います。
肝心のデビューアルバム「Everyone I Ever Loved」」は捨て曲なしの完成度。
少しだけ後半でダレますけど、終始、その美的世界観は保たれています。
特にドラムとギターのサウンドが良いですね。
いや、ベースもボーカルも全然悪くないです。
つまりその、全体的にマスタリングが良いのでチープ感が全くありません。
この辺は音楽機材の進歩を実感する次第です。
巷はちょうどフジロックの季節ですが、まさに野外フェスにも最適な音塊ではないかと思います。
すでに名前を挙げていますが、Teenage Funclub、The Posies、Ride、Suede、Manic Street Preachers、、、そして2000年代エモ系を好んで聴いて育った人はぜひチェックして欲しいですね。
この居心地の良さ、まるで故郷に戻ったようなノスタルジックな気分を味わえるはず。
当ブログでの紹介が遅れましたが、とんでもない新人が現れました。